荒覇吐ふたたび

試作艦のためか、敵重巡洋艦はAM鋼を大量に装備しているようだった。その分、防御力は高まるが、速度が低下する。AM鋼の重さは通常の鋼とほぼ変わりないからだ。最大速度が30kt以下なのはそのためだろう。

・・・

本当だろうか?最大速度を偽っている可能性はないか?実際は、40ktでるのではないか?我々に逃走を選択させ、背後を向けたときに本来の速度で背後からおそってくるのではないか?背後を狙われたらひとたまりもない。艦識別情報を検索したところ、敵艦は荒覇吐の試作艦に近いことがわかった。

元々、どこかの国の通商破壊戦従事艦または海賊船による襲撃と考えていたが、通常艦でなく超兵器を出撃させるのはおかしな話だ。狙いは、おそらく・・・。

とにかく、まずは離脱だ。「ダイヤモンド」「ルビー」「エメラルド」では試作艦に太刀打ちできない。3隻は可能な限り攻撃を敵艦に行いつつ、離脱させる。「ディリジウム」は3隻と別の進路をとりそれぞれ戦場離脱を図る。戦力を分散させるのは痛いが、相手が相手だけに僚艦に無理を強いることはできない。

それに・・・

これ以上、死者を出すと私の能力が疑われる。これ以上居場所のない私にとって、それだけは避けたい。今の居場所を奪われれば、私は生きていくことはできないだろう。家族、故郷、国家、仲間・・・私は、これらすべての組織での居場所を失ってしまった。ミティに言わせれば、私に残っているのは「自分」という組織のみ・・・。死んでしまえばそれまでだが、やはり生き残りたい。

・・・

感情は切り捨てて、副指令に指示を出す。

「他の3艦は全力攻撃の後、本艦と別方向に離脱。挟み撃ちと見せかけるため、本艦は敵艦の背後を狙う。エメラルドにいる乗員の救助は可能な限り行え。エメラルドも航行可能ならば全力離脱、急げ。」

「了解しました。」副指令は、私が出した指示を僚艦に伝える。

「砲雷長、攻撃は魚雷のみを使用し、主砲は徹甲弾から徹甲榴弾に変更だ。機銃の弾はできる限り温存。夜間攻撃になるが照明は可能な限り落とせ。」

挟み撃ち、逃走、逆襲の準備を考えながら次々と命令を出す。最悪の場合を考えて、本艦が輸送していたものを使用することも忘れない。最後の切り札を。

そう切り札だ。切り札はいざというときに使うものだと私は考える(ミティは、切り札は最初に使うものだという。切り札は複数用意しておくものだし、常に作りだすものとのことだ)。

逃げ切れない場合、または僚艦が狙われた場合は、距離零による、零距離戦闘による逆襲を行うしかない。主砲を対人用の徹甲榴弾に変更させたのも、機銃の弾を節約させたのもそのためだ。敵艦の破壊ではなく、敵艦の搭乗員を狙って、敵艦の戦闘力を裂くのだ。無論敵艦の最大速度が本艦より遅いというのが前提だが・・・


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