AM鋼

沈没はしなかったが、これで敵艦は逃げるだろう。いくら通商破壊戦とはいえ、これ以上戦えば大破、最悪沈没もありうる。修理のために本拠に戻るはずだ。

「・・・敵艦健在。被害軽微!!!」

「速度低下の兆候なし。」

「敵艦砲撃!!ダイヤモンドに直撃弾!!」

その報告を受けたとき、私は戦慄を感じた。酸素魚雷を数発まともに食らえば、重巡洋艦といえどもただではすまないはずだ。だが、敵艦はそのダメージをものともしていない。驚きと理不尽な怒りを通り越し、畏怖と懐かしさを感じた。

すぐに私は、司令権限を行使し、ディリジウムの艦長権限を掌握し、この艦を完全支配下に置いた。すぐに、この艦の力が、体内に流れ込んでくる。電波探信儀、電磁防壁、自動装填装置などの特殊兵器の情報が自分の体内に流れ込んでくる。策敵レーダーを強力に使用し、敵艦を補足した。・・・敵艦の戦闘力が落ちていないことはぐにわかった。

「AM鋼か?」というつぶやきに

「AM鋼?中佐、なんですかそれは」私のまじかにいたミティがささやくように問いかけてくる。

この非常時に・・・だが、戦慄を感じた私はなんとはなしに、説明を行っていた。無論、次の行動を考えながら。

それは、非常に強力な金属で未来金属学者がいうには、300年後の技術で精製されるだろうと言われていたものだった。我々や技術者は、それをAM(アーティファクティアルメタル)鋼と呼んだ。錬金術士は賢者の石、古代学者はオリハルコンなどと呼ぶらしいが。

通常の鋼では、ダメージを一点に受けた場合、その点を中心に距離に比例してダメージを受ける。そのため、砲塔・艦橋に直撃弾を食らった場合、相当の防御を施さない限り、破壊は免れないため、その艦の戦闘力は大幅に減少する。

しかし、AM鋼は、ダメージを分散蓄積する。詳細な技術情報は、技術者に聞かなければならないが、私が把握しているかぎりでは、AM鋼はダメージを受けた「瞬間」にそのダメージを「連続的に結合する」金属間で分散し吸収するそうだ。その分散速度は、「時が分離する時間」よりも速い。そのため、敵弾が命中したときに、艦に来る衝撃は分散され、作用反作用の反作用の力を受けた敵弾は大幅に力をそがれ、弾が命中するという「最後の行為の時」まで、ダメージがある一点にたまることはない。このダメージの分散(艦橋に直撃してもダメージは分散される!!)のおかげで、第零遊撃部隊の艦隊は通常の戦闘艦よりも沈没しにくくなっている。無論浮沈艦などは存在しないから、ダメージを受け続ければいつかは沈む。第零遊撃部隊の戦闘艦は、第1~8遊撃部隊と異なり、5ブロック防御法を採用した。艦首、艦尾、左舷、右舷、甲板ごとにAM鋼のダメージ分散範囲を定め、たとえば、左右から魚雷が命中したときに全体にダメージ分散がいかないようにした。

「この技術は、列強も保持しているのですか?」

「ええ、この技術が無ければ、超兵器構想は浮かばなかったと第零遊撃部隊内では話し合っていたものですよ。」

「ということは、あの艦は超兵器ですか?」

「そうなりますね。しかし、出発前にAM鋼はどの国でも作成中止と聞いていたのですが、まだ作っていたとは・・・!!協定違反か」

「そうでしょうか?過去の遺産があるんではないですか?」

・・・

遺産、我々が探しに行く物。誰かが残したもの。そうか、試作艦か・・・どの国でも試作艦を建造したとの情報は聞いていた。当然、第零遊撃部隊も建造していた。というか第零遊撃部隊に所属する艦のすべてが試作艦といってよい。第1~8遊撃部隊に所属していた艦はすべて、試作艦をベースに建造されたものだ。

試作艦。敵が試作艦ならば何とかなるかもしれない。先ほどから考えていた作戦を再度練り直した。

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