突撃

作戦指令

攻撃目標

輸送船10隻以上の撃沈

作戦の成功を祈る!

・・・どこの作戦の指令だっただろうか、とふと懐かしむ。無論、そのような郷愁は一瞬のことだったが、思い出さずにはいられなかった。今の境遇はかつて、私が行ったことの被害者の立場だから。

太陽が西に沈みかけたころ我々の輸送船団は攻撃を受けた。12隻からなる輸送船の1つが砲撃を受け、大破炎上。今まさに目の前で沈みかけるところだ。回想の時を作ってしまったのは、その沈むさまがかつて何度もみた光景と同じだからだろうか。だが、すぐに現実に戻り、任務を果たさなければならない。一応私はこの輸送船団の司令だからだ。

艦橋に入るとすぐにこの改造軽巡洋艦「ディリジウム」の船団副指令が、駆け寄ってくる。

「状況は?」

「輸送船トパーズが砲撃を受けました。通信士の報告によると、6時の方向20000メートルに敵艦を策敵レーダーを補足したとのこと。強力な電磁妨害のため、連続的な観測は困難。砲雷長の見解では、トパーズを破壊した弾の威力から20cm砲を搭載した重巡洋艦と判断。その後も、断続的に砲撃あり、サファイアに至近弾数発。航海長は、敵艦の速度を30kt弱と予測。当輸送船団の速度は19ktなので、すぐに追いつかれます。指示をお願いします。」

簡潔なやり取りだが、わかったのは、何とかしなければ今のままでは全滅するということだった。少し考えた後、

「船団は2つにわける、戦闘力のある改造艦は「ディリジウム」とともに迎撃にあたる。残りの輸送船は英領の領海へ全速で向かえ。当然、戦闘艦は輸送船とは逆方向だ。艦隊再編を急げ。」

戦闘なれしていない輸送船団は当然ながら再編に手間取った。その間、敵艦の砲撃は衰えることなく、至近から我々に砲撃を加えてくる。こちらは反撃できない。船団最強艦「ディリジウム」は、軽巡洋艦であり、しかも輸送船に改造したために、大幅に武装が減っている。だが、速度は往時のままだし、残りの戦闘艦も30ktは出る。敵艦をひきつけ、適当に戦いながら、逃走するのが「今の時」としては最善だろう。

「ディリジウム」と3隻の戦闘艦「ダイヤモンド」「ルビー」「エメラルド」が単縦陣に陣形を整え終わったとき、輸送船3隻が沈んでいた。ディリジウムを旗艦とする艦隊は、敵を引き寄せながら徐々に回頭し、最大速度30ktで敵艦に向かっていった。同航戦を行う考えは毛頭無く、反航戦を行いそのまま逃走するというのが、あの短期間で考えた計画だった。

距離15000メートル、こちらの主砲の有効射程距離は8000メートルだから、砲撃は行っていない。砲撃は敵が盛んに行っている。こちらは、「ディリジウム」の酸素魚雷が頼みの綱だ。距離、12000メートルで全艦一斉に魚雷を発射する。魚雷が敵に吸い込まれていく前に、敵艦の砲撃が「エメラルド」に命中。直撃弾だったらしく、「エメラルド」は戦闘不能になる。助けている余裕はない。「エメラルド」はあきらめて、逃走と闘争を行う。

「エメラルド」が戦闘不能になった直後、酸素魚雷が敵艦に命中し爆音が鳴り、水しぶきが盛大にあがる。どうやら最良の結果になったようだ。艦橋内いたミティも安堵のため息を漏らしていた。

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