「第零遊撃部隊は、幽霊のように突然現れて各国の艦隊に大打撃を与え、疾風のごとく去って行ったのですから、列強が疑心暗鬼にあるのも不思議ではありません。日本は当然アメリカの仕業と考え、宣戦布告の一歩手前までいきました。ノモンハン事件がおきなければ、日米戦争は必死でしたね。イギリスは当初は日独の仕業と考えましたが、日本は極東ですし、ドイツは海軍力が弱いため、アメリカの攻撃と考えたようです。当然、後一歩で英米戦争でした。幸いドイツがヨーロッパでいろいろと問題を起こしたため、そこまで手が回らなかったようです。何しろ当時は本国防衛が第一ですから。」 Ωに所属する上級情報官兼分析官は、過去と現在の状況を簡単に説明してくれる。つまりのところ、私たちが行ってきたことは、世界をいっそう危険にしてきたということだった。作戦中はそんなことは思いもしなかった。 「二年半における第二次世界大海戦で最も深刻な打撃を受けた国は日本ですねー。海軍は全滅状態、陸軍はノモンハンでソ連に大敗北、支那の国民党や共産党などの弱小勢力にすら敗北しています。」 「ドイツはこの海戦には特に気にしていません。オーストリア、チェコ、ポーランドを狙っていたドイツ首相ヒトラーにしてみれば、海軍の馬鹿連中が起こした事件にたいした興味は持たなかったようです。イギリスの挑発とは考えたようですが。」 「アメリカもニューヨークを攻撃されるなど損害を受けましたが、その国力からすでに戦前の4割の海軍力を保有しているとの報告もあります。」 「最も打撃を受けた国は大英帝国です。40億ボンド相当の債権国から推定550億ポンドの債務国に転落しています。借金の借り先はアメリカ、フランスです。国力の絶対的な消耗度合いは列強四カ国の中で最大でしょう。」 淡々と解説を続ける。 「利益を得た国はフランス、イタリア、アメリカですね。フランスは先のヨーロッパ大戦で大負債を抱え込みましたが、今回の海戦でイギリスにべらぼうな金利で金と植民地を提供しています。国内情勢も安定化してきており、第2次大海戦にけりをつけたベルリン協定の主役ですよ。」 「この会議は、フランスが主役になって進行しました。結果を簡単に報告いたします。まず、ドイツはオーストリア、チェコスロバギア、ボーランド回廊の獲得に成功しました。イタリアは、エチオピアを完全に植民地化。日本はソ連と日ソ協商を結び満州の防備を固める一方、国民党政権を承認し、華南、華北から順次撤退。国民党に組み入り、共産党と戦わせているそうです。」 「問題はイギリスです。フランスからは特に注文をつけられなかったですが、アメリカからは即時債務の返済、大英帝国のブロック経済の廃止、カナダの割譲を求められて世論は沸騰状態です。両国の緊張は高まっており、大西洋における英米戦争はもしかしたら回避不可能かもしれません。そのために、イギリスはなんとしてでもオリジナルを手に入れたいのでしょう。ものすごい執念ですよ。」 |