「迷ったようだな」

「迷ったようですねー」

「あついな」

「あついですね」

「救助部隊は来るかな」

「来ないでしょうねー」

「ここで死ぬかもしれないな。」

「死にますねー」

ミティは完全に思考能力が落ちているようだった。何しろ、50度以上の炎天下の中を半日以上歩いているのだ。彼女の体力からすれば、すでにダウンしてもおかしくない。持ちこたえていること事態、尋常ではないと思える。

故国に裏切られ、次の組織にも裏切られ、生きる気力のない私であったが、生命が危機にさらされた場合は、そのようなことは吹き飛ぶようだった。私はともかく未来のあるミティは助けなければ、それが生きる屍と化した今の私のささやかな願いだ

・・・

「今日はこの辺で休もう。オウル、準備を頼む。」

「了解しました。ミティ師、こちらへどうぞ。」

タイガーハンターズのオウルに野営の準備とミティの介護を頼み、私は他の隊との連絡を取ることにした。我々は、60名足らずの前衛要員を6人10組に分けて遺跡発見に割り振って入り口を探索していた。見つけ次第集合し、英仏連合軍に先駆けて遺跡の情報を奪取するのだ。

「サガットや浪の部隊から何か情報は入ってきているか?」

「へ・ん・か・な・し

変化なしのようです。」

情報官カリンの簡潔な報告に、期待はあっさりと打ち砕かれた。森に入ってから1週間。変化なしだ。

「後衛部隊の鷲や龍からは何か言っているか?」

「な・に・も・な・し。

情報は何もないようです。英仏軍の動向にも変化はないとのことです。」

そうか・・・と呟き、目を閉じた。

森は非常に狡猾だった。最初は、日差しのよい、涼しげな感じがしていた。途中で獣に会わなかったのは、幸運だったがそれもすぐに納得が言った。普通炎天下の中では、森は木々に囲まれいるため、ある程度涼しい。最初はそうだった。だが、悪意ある知性は、我々を徐々に蝕んでいた。昼夜を無視してじりじりとあがる気温。いつまでたっても同じ風景。まさに迷路の森だ。

・・・

「御伽噺のように、この森には何か魔法の力が張り巡らされているのでしょうか。」

ミティ、オウル、ソンム、カリン、ファージーらとの食事の時にミティに問いかけみた。ミティはしばらく考えた挙句、口を開いた。

「はい。非常に複雑な力を感じます。あまりに複雑すぎて気付かなかったのですが、この力は強力です。きわめて強力です。」

うれしくない報告だった。

「太陽や月、天の星座はでたらめで、もはや目印にすらならない・・・」

苦しげなオウルの呟き。戦いのプロである彼もこの困惑した状況に相当疲れているようだった。

「森は、ある一定のブロック単位にまったく同じ木々が配置されています、3日前につけた目印の傷を今日発見しましたが、3日前の傷が今日歩いたブロックの同じ場所に同じ傷がついていたようでした。」

雰囲気を暗くさせるミティの説明。

「ミティ。君の、その、魔法の力で、何とかならないのか。」

ファージーがすがるようにミティに懇願する。私も同様だった。

・・・

・・・

「・・・、わかりました。力を膨大に使用しますので、探索の魔術を行っている最中に私のテントへは入ってこないでください。」

かなりの沈黙。ミティは熟考した後、普段とは違い重々しい口調で受け入れてくれた。


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