インド帝国

インド帝国。有史以来統一されてこなかったこの地域は18世紀になって初めて大英帝国によって統一された。北アメリカの喪失によって大打撃を受けていた大英帝国にとって、この地域は海上帝国としての生命線であった。いかなる国もこの地域への侵略を許さないことが、国是であり、であればこそロシアやドイツと大戦争を行ったのだ。だが、19世紀末ごろから海外植民地の地位は低下していく。ヨーロッパの工業化が進んだことにより、工業製品はヨーロッパおよびアメリカで十分に生産と吸収することが出来るようになったからだ。工業製品を購買できない貧乏な植民地は原材料産出国へとあっというまに転落していった。

それにも関わらず大英帝国にとってインドが最重要視されたのは、大英帝国の工業力が列強間の間で相対的に低下し、有力な市場(特にヨーロッパ大陸)から徐々に駆逐され、貧乏だが人口が多いこの地域を独占化せざるを得なくなったこと。また、インドが中東、極東、アフリカを結ぶ大英帝国の軍事・政治の一大拠点であったからである。

先の大海戦によってポンドは大暴落し、代わって台頭したのがフランである。フランの信用力は今や世界一となっていた。その力を元に、フランスはイギリスに対して遺跡の発掘軍に自国の特殊部隊を押し込むことが出来たのである。

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ミティが教えてくれた現状のインドの状況はおおよそこのようなものであった。

「しかし、イギリスがこれほど力をなくしていたとは。以前ならば、自国の勢力範囲に、特にインドに外国軍を引き入れるようなことは絶対にしなかっただろうに」

「これも時代の趨勢でしょう。先の大海戦は、勢力の拮抗した国家間での終わりのない戦いでした。だからこそ俊敏に立ち回れた中立国は膨大な金が得られたのでしょう。」

確かに、イギリスが抱えた550億ポンドの債務は尋常ではない。今後10年の国民総所得をすべて払い出さなければ、このような大金の返却は不可能だ。返却できなければどうなるか?

フルストップだ。ユニオンジャックは世界中から永遠に降ろされることになる。

「イギリスがフランスから借款した金額は300億ポンドになるとか。返却できない資金の代わりとして、フランスは超兵器技術の提供をイギリスに要請し、イギリスは借金の返済を伸ばすためにこの技術を提供したというところでしょう。」

金が払えなければ対価で支払う。当然のことだ。

「それにしても超兵器技術を要求するとはな。フランス海軍はどこまで今回の大海戦の情報をつかんでいるのだろうか。」

「そこまではわかりません。ですが、私たちは出来る限りのことをしましょう。イギリスであれ、フランスであれ、オリジナルを渡すことはできません。」

決意を込めたミティの声。こういうときの彼女は年相応の娘に見えるから不思議だ。

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インド帝国。いかなる事態が我々を待ち受けているのだろう。


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