乱闘、そして

已の漸撃はすさまじく私はあっというまに壁に追い込まれる。はっきり言って防ぐことは困難だ。階下から来た陸上制圧部隊隊長浪は、暗殺者と互角に戦っておりとても私への援助は困難だ。すでに2人を殺害している巫女とはドワーフが戦っている。

「はああー」

気迫の籠った已の攻撃。避けられないと悟った私は、銃を取り出し応戦するが、間に合わない。已は銃の射線をはずしながら左肩に聖剣を振り下ろす。負荷を超えたAM鋼は破損し、肩が・・・

・・・

もっていかれなかった。それどころか、聖剣の攻撃を弾き返していた。

「ばかな?・・・」

呆然とする私と已。AM鋼はいまや緑色に光っている。第零遊撃部隊で軍艦を乗っていたときに良く見た光景だが、このような魔法は艦上魔術師であるミティならばともかく、一介の艦長である私には不可能だ。

(何にせよ今がチャンスだ)

そう思った私は目の前の已を思い切り蹴飛ばした。呆然としていた已はよけ切れず、吹っ飛ぶ。

「若!!!」

主人の危機を察知した、暗殺者と巫女が已の援護に向おうとする。見れば浪はボロボロで、ドワーフは死んではいなかったものの、艦上魔術師である巫女の技によって意識が朦朧としている。

「退避するぞ2人とも。サガット軍曹と合流し、この艦から脱出するぞ」

「了解した」

同じ思いなのか浪はドワーフを抱え、階下へと退避する。この部屋で失った自分の部下の死体には目もくれていない。当然だ。人は死ねはただ塵だ。今は生きているもののことを優先に考えなければならない。

「奴ら、追ってきますかね。」

「いや、追ってはこないだろう。ただ、私たちの脱出は困難だろうな。艦橋を出たとたん機銃斉射されるのが落ちだ。已は艦橋内部で私を死刑にしたかったんだろうが、今は形式にこだわらないだろう。」

「やれやれ、暗い見通しですな。で、脱出が不可能ということは降伏しますか?私はともかく貴方は確実に死刑ですが。」

「そうだな。だがその点は大丈夫だ。鷲は気づいてくれるさ。」

といった瞬間。艦内で爆発が起きた。こちらの異常を悟ったサガット軍曹が機関室の制圧後、機関を破壊したのだろう。まもなくこの船は沈むことになる。已たちも脱出に優先をおかざるを得まい。

・・・

・・・

1時間後、60名の突入隊員は50名に人数を減らしながらもかろうじて沈み行く試作艦から「ディリジウム」への帰還した。

「ご苦労様でした。中佐」

ミティの声は非常に心地よく、1時間前の激戦の疲れからか私は倒れるように艦長席に沈みこみ、夢の世界へと旅立っていった。

インドへの途中でおきた最大の事件は、10名の死者という私の指揮能力に大勢の人間の疑いが高まることで、つまり私の立場が苦しくなることで終結したのであった。


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