一族の野望

「久しいな東光」

その言葉とともに斬撃が振り下ろされた。あわててかわしたものの、十分ではなく。左肩を持っていかれるほどだった。AM鋼で縫った旧第零遊撃部隊配布の愛用のシャツを身に着けていなければ、確実に左肩はもっていかれただろう。それほどすさまじい攻撃であった。真っ赤になったAM鋼は、斬撃のダメージを容赦なく全身に伝えていた。

「死ねなかったのか、已」痛みで飛んでしまいそうな意識の下で発した問いに。

「愚問だな」と男は答える。

この目の間に立つ男。阿羅覇已。海軍兵学校の同期。維新前後に発展した東北地方の名家の出で、阿羅覇一族の長である。10年前に、誤って陸軍士官学校ではなく海軍兵学校に入ったといういわくつきのやつだ。だが、この男は海軍でも十分優秀で、兵学校を次席で卒業している。同期の首席卒業生は卒業2年後に非業の死を遂げているため、実質同期ではこの男が首席卒業といってもよい。

「荒覇吐は、我らが主神。最高神の名。その名を持った軍艦により我らは世界の中心、神々に愛されし日本(大和)を支配するつもりだった。他の地の征服など、蛮人にやらせればよい。われらの支配の恩恵にあずかれるものは、我らが選んだ少数。シナ、朝鮮、アメリカ、インド、満州、ヨーロッパなどの下等知的生命体が、われらの支配してもらうなぞ、両腹痛し。そうとも!世界最高の大地である日本の支配こそが我らが宿願なのだ。だが、あれは四国沖で貴様に敗れた。莫大な金銭、膨大な数の一族のものたち、我が家の名声。すべてを失った。」

現在の大日本帝国を簒奪を悲願とする男は、日本征服と彼らの支配感について話を続ける。先ほどのダメージが残っている私は、彼の独り言を黙って聞いていた。そしてこの状況を好転させるために。

「我ら、阿羅覇一族の宿願である日本の征服。その宿願を絶った貴様に対する天界裁判判決は即時死刑しかない。甘んじて受け入れよ。」と重苦しい声の中年男性が告げる。だが、攻撃はしてこない。状況をよく確かめている。

見覚えのある男だ。兵学校時代に已の身の回りの世話を影からしていたし、已を兵学校の首席にするために、本当の首席を惨殺したという。已は、ある意味馬鹿だが、未来に対する欲望と実行力、罪というものを認識しない精神力はすさまじい。そんな男に、盲目的な忠臣たる暗殺者がいる。海上での戦いならば、海の藻屑にできるものを、いかんせん艦上ではそれは不可能に等しい。

「四国沖の海戦に出現した荒覇吐の艦長は、已、お前か?」と当然のことを確かめる。

「そのとおり、あの時我らは荒覇吐を使用して、大阪で帝国陸海軍の連中に圧力をかけていたのだ。海軍の連中はそのときまでに、自分たちが誰のために何を建造したのかわからなかったようだよ。あのままいけば、陸軍内の親荒覇吐派がクーデターを起こし、東京いる今上を蹴落とせたものを。」

世界中、超兵器さわぎでいっぱいなのに、この男の妙に矮小な野望はある意味笑い話だった。だが、降りかかった砲弾はよけなければならない。わずかな会話の中で、こちらの準備もできていた。艦橋の3階部分。こちらの陸戦隊の第1弾の3人はこの2人に殺害された。第2陣の私と、もう2人のうち1人は死亡、もう1人は巫女らしき女と闘っている。合図とともに、階下の浪は、手早く人選を整え、この階に突入してきた。


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