艦上魔術師

艦上魔術師。この職業が発展したのはつい最近のことである。「軍艦の能力を魔術によって強化する」、これを最初に目を付けたのは、ベルサイユ体制により海軍軍備を制限されたワイマール共和国である。
軍艦の戦闘力は、砲撃力、命中力、防御力、回避力(最大速度)、航続能力からなる。20世紀の科学技術の発展はものすごく、半世紀前は距離1万メートルの戦いだったものが、今では4万メートルの戦いである。我々魔術師には想像もつかない進歩だった。

これほどの距離になると魔術による砲弾の命中率を向上させることは、相当な力をつぎ込んでも困難である。同様の理由から数万馬力に匹敵する魔力を必要とする軍艦の速度増加、航続距離を魔術によって向上させるのは非効率的である。魔術の行使には目的に対して数倍以上もの膨大なエネルギーを必要とするからだ(1943年に原子力を利用したボイラーが建造されるまで、外道ではあるが魔術が最大速度向上に使われたことがあったが)。そのため、魔術による軍艦の強化は攻撃力か防御力の向上に絞られる。
駆逐艦。この小型の軍艦の防御力を向上させるのは無意味だ。12.7cm砲搭載艦の元々の防御力は薄いため、強化しても14.0cm砲並の防御力しか得られない。むしろ攻撃力の増大の方が有用だ。
戦艦。ワシントン体制により列強の保有量が決まったこの軍艦の防御力の向上は非常に有意義だ。戦艦は強大な砲力と自分の砲力に対抗できる防御力が求められる。たとえば38.1cm砲搭載の戦艦であれば、この砲に耐えうるだけのアーマーが必要とされている。アーマーは非常に重量があるようで、たいていはヴァイタルハートと呼ばれる艦の重要箇所に装備されているようだった。

もし、38.1cm砲搭載艦のアーマーが32.0cm砲並であれば、浮いた重量により砲数を増加させることも、最大速度を向上させることも可能となる。しかし、その分防御力が薄くなるわけだが、魔術によりアーマーを強化させれば、32.0cm砲にしか耐えれない装甲が40.6cm砲にも耐えるものになるのだ。
魔術適正が異様に高いAM鋼の発見は艦上魔術師の地位を確固たるもにした。AM鋼により超兵器の発展は可能となったのだ。薄い装甲を魔術によって強固な防御力にすることで浮いた重量を、攻撃力・速力にまわすことにより、強力な艦が完成したのだ。

魔術師にとってもこの話はありがたいものだった。在野で活躍する魔術師は、借金・体力の低下・老後が心配の種だった。だが、軍艦のエネルギーを魔力として用いることで、体力が低下しても強力な魔術の行使が可能となったのだ。さらにバックに海軍がいることで、抱え込んでいた負債はなくなり、忠実な弟子を養うことが出来るようになった。魔術師の歴史の中で始めて老後が安泰になったのだ。 ・・・

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無線傍受の可能性があるため、他の隊や後方との通信は魔術による暗号通信となる。そのため、わたしことミティ配下の通信魔術士は貴重だ。我々の中で暗号通信ができるのは、私の弟子であるカリンだけ。捜索隊の中でこの能力を持つ人材がいない以上、カリンを要するわたしの魔術団の発言権は高い。定時連絡もカリンが属するわたしの隊がが主体となって行っているため、遺跡発掘の主導権は自ずとわたしに属することになる。


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